強迫性障害を抱える公認会計士のブログ

強迫性障害で休職・復職を経験した公認会計士が、日々の生活で実施した治療行動を記録しています。

私の主な強迫観念とその対応を紹介(その1)

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強迫観念


復職してから1か月がたちました。ここまで4週にわたり強迫性障害を治療するために自分で考えた暴露反応妨害法を紹介してきました。世間一般からみれば何でもない、ただ遊んでいるだけのように見えるかもしれませんが、これらが私にとって恐怖や不安、違和感、不快感をもたらす施策なのです。

強迫性障害の治療には恐怖、不安、違和感、不快感が最良の薬となります。特に何もしていなくても強迫観念は湧きますので、薬には事欠かないですね。さて、この記事では復職1か月を振り返って、私の頭の中に頻繁に湧き起こった強迫観念と、それに対して私がとった対応を記載しておきたいと思います。

  • 吃音
  • PCの操作
  • クライアントへのヒアリング
吃音

私には吃音があります。吃音についてご存じない方は、ウィキペディアなどで調べてみてください。

吃音症 - Wikipedia

特定の場面で特定の言葉が発音できなくなる病気なのですが、仕事では電話をとるときや名刺交換の時などに言葉が全くでなくなります。ですから電話や名刺交換の場面を想像してたびたび不安感(強迫観念)が湧きます。かつては強迫行為として、うまく言葉を発する方法はないかと延々考え続けていましたが、これをやめました。この記事を書いているのは復職してから1年以上がたった時点ですが、正直言ってこれには未だに慣れません。

PCの操作

PCの操作はショートカットなど工夫次第でいくらでも早くできます。その反面、自分の操作方法が効率的なのかどうかがたびたび不安(強迫観念)になりました。かつては強迫行為として、仕事そっちのけで効率的な操作法を検索していましたが、一切検索するのをやめました。とは言っても、暇なときにふっと思い出して検索することはありますけどね。仕事には影響が出なくなったので良しとしましょう。

クライアントへのヒアリング

私は公認会計士という仕事をしているのですが、この仕事はクライアントに質問することが多いです。聞き洩らしや理解不足があるとトラブルが生じるため、クライアントの説明を聞いているときはかなり集中する必要があります。強迫観念は集中が必要な時ほど強烈に湧きおこるので、困っていました。かつては強迫行為として、ヒアリング中にもかかわらず強迫観念を解消するためにあれこれと考えを巡らせていたのですが、これをやめ、強迫観念が湧いても無視することにしました。大事な時ほど強迫観念は強烈なので、これはいまだにうまくいったりいかなかったりの繰り返しです。

 

復職第4週目(2019年9月23日~)に実施したこと

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治療

2019年4月に強迫性障害で休職してから、集中治療を経て同年9月に復職し、第4週目に入りました。第2週目からフルタイムで働き始めて、疲れからハードなトレーニングをやめて小ネタのようなトレーニングを続けています。

この時期に実行している行動は「やったことのないことをやる」です。私の強迫観念は「失敗してはいけない」というものですので、やったことのないことは当然失敗する可能性があり、敬遠する傾向にあります。そこで小ネタでもよいので初めてのことをどんどんやっていくことにしました。それでは第4週で実行したことを紹介していきます。

  • サウナに行く
  • 家で勉強する
  • 会社に遅刻する
  • 葉巻を吸う
  • 香水をつける
サウナに行く

自宅近くに銭湯があり、たまに利用していました。銭湯の料金は460円なのですが、サウナをつけると1000円になり、贅沢だなあと思って敬遠していました。そこであえてサウナをつけてみました。サウナはかなりリラックス効果があり、皮膚のつやがよくなることがわかり、しばらくハマりました。

家で勉強する

TOEICの勉強を始めたのですが、自宅で勉強すると妻が文句を言うので敬遠していました。そこを押し切って勉強しました。その後妻に嫌味を言われ勉強にも集中できなかったので、もう家では勉強しないと決めました。

会社に遅刻する

これは久しぶりに「絶対にやってはいけないこと」レベルのハードなトレーニングでした。強迫性障害の人はルールに非常に厳格です。遅刻や忘れ物などルール違反を絶対にしたくないです。そこであえて会社に遅刻してみました。自分自身には大きなチャレンジだったのですが、私の会社には時間にルーズな人が多く、特に気にされませんでした。

葉巻を吸う

ネットで「変わった趣味」を検索することを日課にしていたのですが、そこで葉巻という項目があり興味があって銀座に買いに行きました。葉巻は私の好きなウィスキーと香りがマッチしてしばらくハマりました。

香水をつける

男性でも香水をつける人はいますが、そんな男は女々しいという謎の倫理観を持っていました。そこであえて香水を買って職場へつけていくことにしました。ドキドキしましたが特に誰からも反応はありませんでした。

 

第4週目の感想

強迫性障害で休職する直前のころ、私は物事にまったく集中できなくなっていたため、仕事の効率が絶望的に悪くなっており、人事評価をとても気にしていました。なんとか仕事ができる風に見せようと必死だったのです。そこで復職したとき、「絶対にやってはいけないこと」の一環としてこの人事評価を逆に最低にする、というトレーニングを思いつきました。

たまたまネットで見つけた「ひつじ先輩ブログ」というブログで、モンスター社員のなり方という記事が書かれていて、とても参考になりました。

baacash.com

今週の遅刻する、というトレーニングはこちらのブログを参考にしています。そして2か月目第1週以降は、このモンスター社員を参考にして仕事の中でルール違反をしていくことにしました。

復職第3週目(2019年9月16日~)に実施したこと

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治療


2019年4月に
強迫性障害で休職してから、集中治療を経て同年9月に復職し、第3週目に入りました。「絶対にやってはいけないこと」を毎日ひとつ実行することを目標にしていましたが、第2週目からフルタイムで働いていますので、疲れてしまって、この辺りからとりあえずやったことのないことを毎日やるという小ネタばかりの期間がしばらく続きます。

暴露反応妨害法は強迫性障害の患者にとって「絶対にやってはいけないこと」をする治療法です。精神的にかなり消耗しますので、最初から頑張り過ぎるとつづけることが難しくなります。しばらくは小ネタが続きますが、この病気の治療は長期戦なので良しとしましょう。それでは第3週に実行したことを記載します。

  • デパートで用途の不明な高額小物を買う
  • 行列のできる居酒屋に行く
  • マッサージ店に行く
  • 高校野球の試合を球場で観戦する
デパートで用途の不明な高額小物を買う

先週行った占いのお店で赤いものを身に着けるとよい。という提案があり、デパートで赤いものを買いに行きました。倫理観に反してお金を無駄遣いしようと思い、用途のわからない小物を買いました。店員さんに確認したらどうやら小銭入れのようでした。15,000円でした。

行列のできる居酒屋にいく

人気のある店は独自のルールや常連さんばかりのイメージがあり、ルールがわからず恥をかくなどの失敗をするかもしれません。失敗を恐れる私にとっては敬遠の対象でした。そこであえて並んで入ってみたのですが、とりわけおいしいというわけではありませんでした。

マッサージ店に行く

これもいままで行ったことのないジャンルのお店でしたので、行ってみました。かなり強くもまれて結果的に体がだるくなりました。

高校野球の試合を球場で観戦する

このころ、高校野球は秋の地方大会を開催しています。私は元高校球児なので普段から新聞などで試合結果を気にしていましたが、直接球場へ見に行くことにしました。臨場感や球児の真剣な姿、負けたら終わりという緊張感が伝わりとても楽しかったです。野球観戦はここから私の主要な趣味になりました。

第3週目の感想

職場復帰した当時は、毎日恐怖を感じることをするぞ!と意気込んでいたのですが、だんだんとやったことのないことをやる、という方向に路線を変更していきました。このあたりから、毎朝スマホで変わった趣味を検索しては面白そうなものを選択して、仕事の帰りにそれを実行するという生活をしていました。これは意外にも効果が大きく、強迫性障害の症状はますます回復していき、今日は何をしようかと毎日が楽しくなっていきました。

復職第2週目(2019年9月9日~)に実施したこと

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治療

2019年4月に強迫性障害で休職してから、集中治療を経て同年9月に復職し、第2週目に入りました。強迫性障害を治療する秘訣は「絶対にやってはいけないこと」をやることです。とは言っても前回の記事で記載した通り、世間一般から見れば大したことではありません。あくまで強迫観念の視点でやってはいけないことをやる、ということです。

kyouhakucpa.hatenablog.com

私の強迫観念は「失敗してはいけない」というものですので、治療としては失敗しそうなこと、やったことのないこと、自分の倫理観に反することをすることにしています。また、それらを実行する際の不安や恐怖、嫌悪感に耐えることも重要です。それでは、第2週に実行した内容を紹介していきたいと思います。

  • 一人カラオケに行く
  • 美容室で髪を切る
  • ゲームセンターでドラムのゲームをやる
  • 地元密着系のラーメン屋に入る
  • おしゃれな服を買う
  • 占いの店に行く
一人カラオケに行く

私はそれまで、カラオケにほとんど行ったことがなく、お店のシステムがわからない不安と一人で行くという恥ずかしさを体験する目的で行きました。店員さんに変な目で見られることもなく、あっさりと時間が過ぎました。

美容室で髪を切る

男が美容室に行くのは男らしくない、という謎の倫理観を持っていました。倫理観に反した行動として美容室に行ってみました。普段の床屋より技術が高く、お気に入りの髪型になりました。

ゲームセンターでドラムのゲームをやる

今のゲームセンターには音ゲーと言われる楽器を演奏するゲームが多いです。その中でも動きが派手で目立ちそうなドラムをたたくゲームをしました。素人なのでタイミングを外しまくったのですが、とくに誰も見ていませんでした。

地元密着のラーメン屋に行く

私はシステムのわからないお店では、恥をかいたりするかもしれないので、基本的に飲食店はチェーン店ばかり行きます。そこであえて地元にしかない個人商店に行ってみました。以外にも食券を導入しているお店で少し焦りましたが、とてもおいしいお店であることが判明し、その後常連になりました。

おしゃれな服を買う

これも美容室と同じで、おしゃれをするのは男らしくない、という謎の倫理観がありましたので、それに反する行動ということで実行しました。服を選んでいる間は恥ずかしい気持ちがありましたが、気に入ったコーディネートが決まり、以後ずっと着ています。

占いの店に行く

これはシステムがわからないお店に行くという面と、お客さんが女性ばかりなので場違いで恥ずかしいという感覚を体験するために行きました。強迫性障害は治りますか?と質問したのですが、これから良くなります。との結果が出ました。

第2週目の感想

遊んでばかりいるようですが、この週からフルタイムで働いています。仕事中は従来のように失敗するかもしれないという不安がたびたび生じています。とくに私には吃音があり、電話などで言葉に詰まってしまうことがとても不安でした。その他PCの扱いで入力ミスをする不安や非効率な作業をしてしまって時間を無駄にする不安など、強迫観念は絶え間なく沸き起こります。

強迫性障害の治療に有効な暴露反応妨害法(ERP)はこのような恐怖に耐えることが重要ですので、何ら対策をせず、ひたすら失敗する不安を放置して業務時間を過ごしていました。不思議なことに失敗しても構わないと、対策を練ることを放棄したほうが集中力が増し、仕事が早く終わるようになっていきました。

 

 

復職第1週目(2019年9月2日~)に実施したこと

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治療

強迫性障害で私が会社を休職してから5か月後の2019年9月2日に、私は復職しました。一般に休職から復帰した人は職場に慣れるまでしばらく時短勤務をすることが多いと思いますが、強迫性障害では、強迫観念が主に暇な時間に生じる傾向にあることから、時短勤務よりもフルタイムで勤務するほうが治療に効果があります。

私は最初の1週間だけ時短勤務にしてもらい、第2週からフルタイムで働くことにしました。強迫性障害の治療の秘訣は、「絶対にやってはいけない」ことをやることです。ここからは、私が復職してからの各週に実施した自主的な暴露反応妨害法(ERP)の内容を紹介していきたいと思います。

  • オフィスで会った職員にあいさつをしない
  • 社内メールの返信を簡素にする
  • 仕事終わりに漫画喫茶に寄る
  • 仕事終わりに風俗店に行く
  • 仕事終わりにダーツをしに行く
オフィスで会った職員にあいさつをしない

倫理感に反することとして実行しました。公認会計士の会社(監査法人といいます)はそもそも人間関係が希薄なので、特に周りは気にしていない様子でした。

社内メールの返信を簡素にする

これも倫理観に反することとして実行しました。丁寧な文章をやめてそっけない内容のメールを送ることにしたのですが、これまた相手は特に気にしていない様子。

仕事終わりに漫画喫茶に寄る

利用したことがなく、システムがわからないお店を敬遠していたので、あえて行ってみました。快適ですが、意外と料金が高いと感じました。

仕事終わりに風俗店に行く

倫理観に反すること、かつ、それまでこの手のお店に行ったことがなくシステムがわからない、ということで行ってみました。入店前はとても緊張しましたが、女の子との会話が楽しかったです。

仕事終わりにダーツをしに行く

人目について恥ずかしい体験をするべく、自宅近くのゲームセンターで一人でダーツゲームをしました。ルールがよくわからなかったのですが、100円で結構なゲーム数遊べたのでお得感がありました。

第1週目の感想

強迫性障害の人はまじめな人が多いのですが、私もそのような非常にまじめな人間でした。とりわけ失敗することを恐れる強迫観念を持つ私は、行動範囲が極端に狭かったので今までの自分がやったことのない行動をとってみることにしました。

今こうして書いてみると世間一般には大したことのない行動ばかりですね。ただ、いずれも初めてのことで不安感がありましたし、やってみた後はあの銀座で踊った時のような「楽しい」という感覚がありました。かつて朝から晩まで強迫行為に疲れ切っていた私は、自分でも信じられないほど毎日楽しく仕事に向かうようになりました。

強迫性障害を克服する秘訣

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治療

原井クリニックにおける3日間の集団集中治療の最終日、私は自宅へ戻る道中、銀座で踊った時の「楽しい」という感覚を思い出していました。強迫観念のない「楽しい」という感覚、それは、中学3年生から強迫性障害に悩まされる以前の私の感覚でした。銀座で踊るということが、なぜ私を強迫性障害から抜け出させるきっかけになったのか、私は考えていました。

  • 強迫性障害の自分とそうでない自分
  • 絶対にやってはいけないことをやる
  • 社会復帰までの1か月

 

強迫性障害の自分とそうでない自分

銀座で踊った時、私は一時、強迫性障害から抜け出していました。踊り終わってからは、またもとの強迫性障害の症状が出始めましたが、一時でも抜け出すことができた経験が治療への大きな一歩となりました。強迫性障害の時の自分と、そうでない時の自分の違いを比較検討することができたのです。

銀座で踊るという行為は、強迫性障害の私からは絶対にありえない行動です。以前にも記載した通り、私の症状は失敗することに恐怖を感じ(強迫観念)、失敗しないように事前に対策を考え続ける(強迫行為)というものです。したがって、公衆の面前で下手なダンスをするという失敗をさらすようなことは絶対にやってはいけないことなのです。しかし、その絶対にやってはいけないことをすることで私は強迫性障害から一時抜け出すことができた、という事実に気づきました。

私の症状は過去記事を参照してください。

kyouhakucpa.hatenablog.com

 

絶対にやってはいけないことをやる

失敗を恐れる私の強迫観念は、当然ですが、失敗しそうなことは絶対にしません。ですから、私が強迫性障害で苦しんで、何とか改善策はないかといろんな本を読んだり、インターネットで調べたりして情報を集めても、失敗しそうなことは採用しませんでした。正確には、怖くて採用できませんでした。こうして、強迫観念に従って行動する限り、強迫性障害の患者は非常に狭い範囲でしか行動できず、結果的に正しい治療法にたどり着くことができなくなるのではないかと思います。

私が3日間の集団集中治療で悟ったことは、「絶対にやってはいけないことをやる」、これこそが、強迫性障害を治療する方法なのだということです。振り返ってみれば、漢字のとめはね、偏(へん)と旁(つくり)の間隔、字体の違いにこだわって勉強が進まなかった学生時代を思い出しても、結果的に適当に判断して書いても成績に大差はありませんでした。「絶対にやってはいけない」と言っているのは強迫観念であって、決して真実ではなかったのです。

 

社会復帰までの1か月

強迫性障害は、治療に時間のかかる病気です。3日間の集団集中治療にも2回目の参加者がいたように、継続的な治療を怠れば再び症状がぶり返します。私は、3日間の集団集中治療で悟った「絶対にやってはいけないことをやる」というトレーニングをその後1か月ほど継続し、自力で継続的に改善できることを確認したうえで、復職することにしました。

3日間の集団集中治療に参加したのは7月下旬でしたので、8月を自主トレーニング期間として9月に会社に復職する計画を立てました。ここからは、「絶対にやってはいけないことをやる」という大原則のもと、私が自ら考えて、実施したトレーニングの内容を紹介していきます。これから強迫性障害を治療しようと考えている方の参考になればと思います。

3日間集団集中治療へ参加(3日目)

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治療

集団集中治療も3日目を迎え、私は少し焦りを感じていました。1日目、2日目ともに自分の症状にはあまり適合しないERPのメニューであったため、自分の症状に回復の兆しが感じられませんでした。最終日の3日目も手ごたえが感じられなかったら、他のクリニックや治療法をまた一から探さなくてはなりません。すでに会社から給料が支給される3か月の休職期間を過ぎており、雇用保険から傷病手当の支給が開始されようとしていました。

1日目、2日目の治療内容は過去記事を参照してください。

kyouhakucpa.hatenablog.com

kyouhakucpa.hatenablog.com

 

  • 3日目のメニューを告知
  • 銀座の歩行者天国
  • 回復の道筋を悟る

 

3日目のメニューを告知

3日目の朝、参加者がクリニックに集まると、先生が白いスクリーンに何やら映像を投影していました。どうやら、YouTubeで公開されているダンス練習用の動画のようでした。私たち、患者のグループが不思議そうに映像を見ていると、先生がふと「今日は銀座の歩行者天国でこれを踊ります」と本日のメニューを告知されました。

「えっ!!」患者一同は驚くとともに、焦り始めました。東京の銀座には百貨店やブランドショップが並ぶ大通りがあり、そこは土日に歩行者天国となって、大変な人出でにぎわいます。そこでダンスなどしたら、とてつもない人に奇異の目で見られること必至です。私は東京在住ですので、歩行者の中に知り合いがいる可能性も十分にあります。とりわけ、失敗することに恐怖を感じる私は、このメニューに猛烈な恐怖感を感じました。

 

銀座の歩行者天国

昼食をとったあと、我々は銀座に歩いて出かけました。いよいよ歩行者天国に入ります。我々は手始めに、大通りの真ん中で準備体操をしました。それから50メートルダッシュをしてみたり、目をつぶって白線の上を歩くゲームなどをしました。すでに謎の集団が歩行者天国で変なことをしている、と周りの人々の注目を集めていました。

「では踊りましょう」先生が携帯で音楽を流し、我々はついに銀座の大通りで集団でダンスを披露し始めました。振り付けは朝にちらっと見たYouTubeの映像の記憶しかないので、とてつもなく下手なダンスになりました。道行く人は立ち止まり、スマホをこちらに向けています。ブランドショップの警備員は表に警戒のため出てきます。とてつもない恥ずかしさが我々の心を貫いていきました。

 

回復の道筋を悟る

ダンスを始めてしばらくは、強烈な羞恥心が沸き起こりましたが、不思議なことに私のなかでだんだんと「楽しい」という感情が芽生えてきました。それは、子供のころに近所でいたずらをしているような感覚に似ていて、いつの間にか私は全力の笑顔で踊っていました。ダンスが終わった後、我々は再びクリニックに歩いて引き返しました。参加者が口々に「恥ずかしかった」「やっと終わった」など不快感を漏らしているなか、私は「楽しかった」という感覚をかみしめていました。

中学3年生で強迫性障害に苦しみ始めてから、35歳当時で20年間、私は「楽しい」という感覚を忘れていました。常に失敗することへの恐怖(強迫観念)とそれを回避する方法を考えること(強迫行為)に明け暮れ、目の前のことに何ら集中できなくなっていたため、何をしても楽しくなかったのです。そんな私が、まさに20年ぶりに「楽しい」という感覚を味わいました。「楽しい」とき、強迫性障害の苦しみは消えています。そのとき私は、強迫性障害から抜け出す道筋を悟ったのです。